名誉会員:田村俊和(TAMURA, Toshikazu)

 田村俊和先生(1943年生まれ)は1970年に東京都立大学理学部に助手として赴任されたのち,1981年に東北大学教養部助教授,1989年同理学部,1995年同大学院理学研究科教授を経て,2002年より立正大学地球環境科学部教授を歴任された.地形学のみならず,第四紀環境学および災害・防災研究において数多くの業績があり,地形学およびその周辺科学に多大な貢献と大きな影響を及ぼした.以下に,それらの貢献について述べる.

1.丘陵の地形学発展への貢献

 丘陵は日本の国土のおよそ10%を占めるだけでなく,特に高度経済成長期以降においては人間生活の場としてきわめて重要な位置を占めるようになった.また,丘陵は日本における第四紀中期の地形形成を知るための重要な場である.丘陵における地形の認識,地形形成プロセスの解明は,地形学における重要課題であるだけでなく,人間の生活の場の形成,将来の変化予測にとって重要である.田村氏はこのような場においてそれまで十分に認識されていなかった丘陵地形を区分することにより,丘陵の地形分類のスタンダードをつくりあげた.地形分類は今日,地形形成,地形変化,環境,災害・防災を考える上できわめて重要な標準的地形認識法となっている.

2.災害・防災研究への貢献

 1978年宮城県沖地震を契機として,丘陵地形研究をもととした丘陵の宅地造成と地震被害に関する先駆的研究を行い,公表してきた.丘陵開発が地震被害を増大させることを明らかにした研究で,防災に関するさまざまな場面で取り上げられてきた.開発優先の中で実際の開発の場面ではなかなか顧みられず,2011年東北地方太平洋沖地震でも事例地を含む広い地域で同様な災害が起こったことは残念であった.

3.丘陵の環境,人工地形に関する認識および生態学分野への貢献

 防災との関連だけでなく,人工地形および地形への人為的作用が環境へ及ぼす影響の評価にも関わってきた.丘陵の地形学的研究から始まる丘陵を中心とした研究は,丘陵の植生,環境研究にも大きな影響を及ぼし,いわゆる里山地域を扱う植物生態学においては田村氏の地形研究のレビューは外せないものとなっている.このように,地形学と関連する隣接分野への貢献も大きい.

4.熱帯半乾燥地域の環境と環境変動に関する分野への貢献

 熱帯半乾燥地域における環境変動に関して,先駆的な研究を行ってきた.砂漠化で象徴されるアフリカサヘル地域における環境問題は,世界的な今日的環境問題の1つであるが,田村氏はとくにカメルーンにおいて,この問題の研究に先駆的に関わった.万年単位から千年単位で,過去から現在までの自然による環境変動と人為の介入による環境変動を記載し,サヘル地域における自然への人間の関わりを明らかにした.

5.熱帯湿潤地域の地形,環境研究への貢献

 丘陵地形研究,人工地形研究および半乾燥熱帯地域研究の経験を生かして,タイ北東部のコラート地域における地形研究,環境研究を行い,伝統的な生業による地形改変とそれによる環境変化,地形環境悪化の原因について明らかにした.人為作用が地形環境悪化に関わるプロセスは世界のさまざまな地域で指摘されるようになってきているが,本研究をはじめとする熱帯湿潤地域における研究はこれらの先駆けになる研究といえる.

6.地形学研究者育成への貢献

 田村氏は東北大学理学部および大学院,立正大学地球環境科学部および大学院で教鞭を執ってきた.この中で地形学に関わる研究者やこの分野を社会に応用する現業分野に携わる人材を多数育成してきた.とくに,大学在籍研究者だけではなく,国や地方自治体,民間企業の研究者も多数輩出している.さらに,編集として加わった東京大学出版会の『日本の地形3 東北』をはじめとする地形誌,自然誌,環境研究などに関する教科書となり得る著書は,この分野の教育,研究者育成に大いに役立ってきた.

7.地形学連合への貢献

 田村氏は2011~2013年度には会長を務めた.また,2004年12月にタイ南部のハジャイを中心として行われた2004年秋季大会「モンスーンアジアの地形・環境災害に関する国際会議」では日本側の実行委員として大会を成功に導いた.

 以上のように地形学における多岐にわたる貢献およびそれらの周辺領域への貢献・情報発信を行ってきたことから田村俊和先生を日本地形学連合の名誉会員に推薦致します.

文責:島津 弘
2026年9月26日推戴